冒頭でこの映画は実話である…と字幕がでる。
「これから流す映像は厳しいものになるけど 目を背けずに現実をちゃんと見てくださいね」と言われた様で 少し背筋が伸びた。
案の定、目を背けたくなる様な信じられない現実ばかりが映し出され 何度も観るのを断念しそうになりつつも なんとか鑑賞しました。
貧しい母子家庭の母親が病気になり、彼らを引き取る親族もおらず 男児向けの児童養護施設に預けられることになったエリックとエルマー。
(まぁ…叔父がいるんですが 引き取れる状態でもないし 精神面でも全然頼りにならない…無念)
訳あって親がいなかったり 育てる能力がない親を持つ子供達というのは、ただでさえ辛い境遇で傷付いているので 本来であればすくすく成長できる様に大人達が色々とサポートしてあげなくてはいけないのだけど、この養護施設がとんでもなく地獄の場所だった…というお話です。
一人の大人として、目を背けずに考えなくてはいけない問題だと思う。
考えがうまくまとまっていないけど、以下 ネタバレありの感想を書いてみようと思います。
作品詳細
製作年 | 2016年 |
---|---|
製作国 | デンマーク |
上映時間 | 119分 |
監督 | イェスパ・W・ネルスン |
出演者 | エリック / アルバト・ルズベク・リンハート エルマー / ハーラル・カイサー・ヘアマン ヘック校長 / ラース・ミケルセン ハマーショイ先生 / ソフィー・グローベル、他 |
簡単解説
コペンハーゲンの養護施設で起きた実話をもとに、自分たちの手で未来を切りひらこうとする幼い兄弟の絆を描き、デンマーク・アカデミー賞で作品賞をはじめ6部門に輝いたヒューマンドラマ。1967年。労働者階級の家庭に生まれた13歳の兄エリックと10歳の弟エルマーは、病気の母親から引き離されて養護施設に預けられる。そこでは、しつけとは名ばかりの体罰が横行していた。さらにエリックたちは新しい環境になじめず、上級生たちによるイジメの標的になってしまう。そんな過酷な日常から抜け出すべく、兄弟は施設からの逃亡を図る。ラース・フォン・トリアー率いる製作会社ツェントローパの俊英イェスパ・W・ネルスンが監督をつとめ、デンマークで史上最高視聴率を記録したテレビドラマ「THE KILLING キリング」のスタッフやキャストが集結。ソフィー・グロベルが子どもたちを見守る教師役、ラース・ミケルセンが厳格な校長役を演じた。
映画.comより
簡単なあらすじ
1967年、コペンハーゲンにて生活をしているエリックとエルマー。母親と暮らしている彼らはお金がないため、物を盗んだりすることも珍しくなかった。
貧しい生活を送っていた2人だが決して悲観的ではなかった。特にエルマーは宇宙への憧れも強く、将来は宇宙飛行士を夢見ていた。
だがある日、母親が病気で倒れてしまう。母親の病状や収入を鑑みるとエリックとエルマーをこのまま生活させることは厳しい状況であった。叔父に預けることも候補として挙がっていたが、叔父の収入は安定せず結局2人は男児用の児童施設に預けられることになる。
MIHOシネマより
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基本的にネタバレを気にせずに書いているので、未見の方でネタバレしたくない方はご注意ください。
暴力が横行している暴力養護施設
ⓒ2016 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa International Sweden AB
入所初日からちょっとしたことで暴力を受ける。仲間からも集団リンチに遭う。唯一まともそうな女教師もできる限り助けてくれようとはするものの、やはり肝心なことはしてくれない。
大人達はいつだって自己保身に必死だ。(医者すらも助けてくれないんだから救いがないよ…)
校長はまるで王様のようなご身分で やりたい放題…観ていて本当にイライラした。
とにかく逆らってはいけない。幽霊のようになってなるべく目立たない様に暮らすのがベストなのだと。本来だったら自分の個性を伸ばすために のびのびと成長すべき時期なのに 幽霊にならなくてはいけない現実…。
特にエルマーを性的虐待した先生?は許せない。手が不自由になったくらいじゃ罪は消えないよ?って思ったし 兄を助けるためにわざと部屋で待っているエルマーに対して
「君は大きくなって汚らわしくなってしまったから、もう前みたいに好きじゃない」とかのたまっていた。殺意が芽生えた…当然です。
(世の中の汚れと罪を凝縮したような奴にだけは言われたくないセリフ…)。
エルマーは兄想いのピュアで優しい子だよ?天使の様に綺麗な子だ!少しも汚れてない!って悔しくて悔しくて涙が出た。
弟想いのエリック
ⓒ2016 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa International Sweden AB
足が悪い弟をいつも気にかけている優しい兄。現実主義というか 夢を見ること自体を諦めているのか あまり夢を見ない子供である。万引きしたりヤンチャもするが あれほどの虐待を受けなくてはいけない程の罪とは思えず…。弟を守るためにいつも自分を犠牲にしようとしていて 見ていて辛かった…。特にエルマーが 性的虐待をされることを予感した あの時、自分が代わりに行きますって…普通は言えないと思う。すごく苦しかった。
15歳になったらここから卒業できる。それだけを希望にして頑張っていたのに まさかの18歳まで延期になった時の絶望感。
生きながら死んだような生活が続いていく…そりゃ校長の車に傷くらい付けてやりたくなりますよね…。でも瀕死の状態まで暴行されて辛かった…。どう考えてもあの校長は地獄行きだと思う。
宇宙飛行士を夢見る 純粋なエルマー
ⓒ2016 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa International Sweden AB
エルマーは宇宙が大好きな純粋な少年。足が不自由で人から笑われても 宇宙飛行士になるのが夢だ。それに文才があった。読み書きができない子供達が多い中、エルマーは文字の読み書きが得意で日記をつけていた。迎えに来ない親達からの手紙を 夢のある素敵な文章に創作して読み上げるシーンでは 幽霊だった子供達がほんの少し人間らしい感情を得ていたように思う。どんなに過酷な環境であってもやっぱり夢とか一筋の光になるものが必要だと改めて思う。このシーンは胸がジンとした。
エルマーは辛い現実を生き抜くために、宇宙という夢を見ることで なんとか生き抜くことが出来たのだと思う。ラストの宇宙へ飛ぶシーンは 頑張ったエルマーに対しての 神様からのご褒美かな?と感じた。あの時、確かにエルマーは宇宙飛行士として月に向って飛んで 浮かんでいたし お母さんも見つけることができた。エルマー頑張ったね、良かったねって気持ちでいっぱいになってしまって 大号泣してしまいました。現実は何も解決してないけど、ほんの一瞬でも何かが叶うというのが 本当に大事だなぁと思う。
まとめ
ⓒ2016 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa International Sweden AB
1967年の出来事だったけど 2019年の今になっても、児童や老人虐待・DV・セクハラ・パワハラ・集団リンチなどなど 人権侵害や差別がなくなった訳ではない。それでも この映画に登場する彼等が生き抜いて 様々な事実を告白してくれたからこそ、私達は人権について認知することができて 考えるようになったし 平和に暮らせているのだと思う。
まだまだ改善すべきことはあるだろうけど、この映画に出てくる様な酷い養護施設というのは さすがに少なくなっているのではないか。(というか無いと願いたい…)
子供を虐待する人間って、どのタイミングからそうなってしまうんだろうか。
地位や権力を手に入れて 自分はすごい、自分は偉いと錯覚して気が大きくなってしまうのかな。
それとも自分に全く自信がなく、弱いからこそ 虐待によって万能感を得ているのか。もしくは その両方か。
いずれにしても彼等のことは理解できないし 理解したくもないので、多分 永遠に謎のままだろうと思う。
(彼等も子供時代に虐待されていた…というお決まりのやつは 免罪符にならない)
今回は たまたまエリックとエルマーという兄弟がいて、お互いを想い合う強さや勇気があったからこそ公になったけれど、これは氷山の一角に過ぎないのだと思うと胸が痛くなる。
人知れず亡くなった子供も沢山居ただろう。それに 公になって悪い大人達が裁かれたとしても めでたしめでたし、とはならない。
この映画のラストにもあったように、虐待を受けていた子供達は、その後 依存症やPTSD、精神疾患に苦しむことになる。身体の傷は時間が経てば回復するが 脳に刻まれた傷は一生消えない。下手したら一人の人間の一生が台無しになってしまう。これは殺人と変わらない。日本においても 虐待などはもっと罪を重くすべきだと思う。
私も一人の大人として 何ができるだろう?って考えた時に、せめて見て見ぬ振りはしない大人でいようと改めて思った。
とても厳しい内容だったけど、全ての大人が ちゃんと観て欲しい映画でした。