こんにちは オリカ(@orika_note)です☺
今回は以前から気になっていた「蛇のひと」を鑑賞しました。
2009年に『WOWOWシナリオ大賞』を受賞しているとのこと。
シナリオ大賞については詳しくはないのですが、ちょっと期待しながらの鑑賞です。
結論から言うと 私はとても好きな作品でした。
派手なシーンがあるわけではないけれど、ストーリーが進むにつれ どんどん引き込まれ、 飽きることなく最後まで観れました。
仕事もできて頼りになる会社のエース・今西(西島秀俊)が、会社の金(1億円)を横領して失踪する。部下である三辺(永作博美)が行方を捜すことになるのだけど、捜索していくうちに 彼と関わった人達は なぜか人生が狂わされて、不幸になっていることを知る…。
誰でも「表向きの顔」というのはあると思いますが、今西の闇が深い感じがとても怖い。
どこから見ても真っ直ぐで誠実な人に見えるのに、少しずつ別の顔を覗かせる西島秀俊さんの 好青年なのにどこか胡散臭さを感じさせる(少しだけ偽善者っぽくも感じる)微妙な演技が良かった。永作博美さんのチャーミングなのにサバサバしてる感じも良かったです。どんよりした暗い映画になりすぎず、テンポよく観れました。
以下、映画の詳細とネタバレ感想になります。
作品詳細
製作年 | 2010年 |
---|---|
製作国 | 日本 |
上映時間 | 101分 |
監督 | 森淳一 |
脚本 | 三好晶子 |
出演者 | 三辺陽子(今西の部下)/ 永作博美 今西由起夫(商社課長)/ 西島秀俊 今西の幼なじみ/板尾創路 島田剛(漫画家の卵)/ 劇団ひとり 田中一(三辺と一緒に探す社員)/ 田中圭 里中(今西の元同僚)/ 勝村政信 柴田のりこ(保険勧誘員)/ ふせえり 里中の妻 / 佐津川愛美 原田(予備校講師) / 北村有起哉 原田の妻 – 奥貫薫 功太夫(義太夫の師匠) / 河原崎建三 今西の母 / 遠山景織子 伊東部長(今西の上司) / 國村隼 伊東牧子 / 石野真子 陽子の婚約者 / ムロツヨシ |
簡単解説
第2回WOWOWシナリオ大賞に輝いた脚本を、永作博美&西島秀俊主演で映像化したヒューマン・サスペンス。部長の自殺と時を同じくして姿をくらませた課長・今西の行方を探すことになったOLの陽子。調査を続けるうち、彼女はよく知っていたはずの今西の人物像に疑問を抱きはじめる。「Laundry」「重力ピエロ」の森淳一監督がメガホンを取り、美しくも悲しい人間の“業”をみずみずしい映像美で描き出していく。
映画.comより
簡単なあらすじ
今西由紀夫は誰もが認める優秀な会社員だ。人当たりが良く、会社のエースとして慕われている。ところが、部長の自殺と同時に今西の行方が分からなくなる。
今西の部下である三辺は、副社長から今西に1億円横領の疑いがあることを聞かされる。今西の捜索を命じられた三辺は、謎の多い今西の周辺を探り始める。
「いい人」と思われていた今西。しかし、三辺は調べを進める中で今西はそんなにいい人ではないのではないかと感じ始める……
MIHOシネマより
↓Amazon Primeで観てみる↓
基本的にネタバレを気にせずに書いているので、未見の方でネタバレしたくない方はご注意ください。
“蛇のひと”の感想
彼と関わった人達は なぜか人生が狂わされて、不幸になっていく…。
子供の頃から賢くて計算高かった今西は、壮絶な生い立ちにより 憎しみを抱くようになり 家族(実の母親以外)を殺すように仕向けたという。
恐らくサイコパス気質だろうし、彼自身が言うように“一生治らない病気”なのかもしれない。
それでも、今西という人間は もしかすると普通の人間だったのかもなぁとも思ってしまう。というか、私がそう思いたいのかも?
説得力のある雄弁な語りは 父親の遺伝もあるだろうけど、厳しい子供時代を生き抜くために身につけた処世術のようなものなのかもしれない。
義太夫の才能はあったけれど 彼がやりたいと言ったわけではなかったのに弟子入りさせられたり、そこでの本妻や兄弟子達からの壮絶な虐め、愛人の子ということで安心できる居場所がなかった…など、
愛情を受けて育てられていないどころか、踏みにじられることばかりだった。
そんな環境に置かれれば、どう立ち回れば自分を守れるのか……ということを考える人間になってもおかしくない。
自分を守るために敵を知る必要もあったと思う。それによって相手が望んでいることや弱点を必然的に観察するような子供時代だったのでは?と。
なので 先天性のサイコパスというより、必然的にそういう人間になってしまった…という気がする。元々は普通の人間だったのでは?と。
子供の頃からそんな能力を身につけているのだから 大人に成長した今西にとっては、相手を喜ばせることも 陥れることも とても簡単だったでしょうね。
相手が喜ぶこと=相手の欲や業(蛇の部分)を満たすって事が多いので、相手が何を望んでいるかがわかった段階で相手の“蛇”も同時に知るということなので。
でも 彼の発言をただ素直に聞いていると 不思議と彼自身が悪意を持っているという感じがしないんですよね。妙な説得力があるし、本当に好意的にアドバイスしているように聞こえる。映画を観終わった今でも 本当に今西は悪意を持っていたのだろうか?と疑問に思うほど。
(だから みんな口車に乗せられてしまうんですけど…)
しかし、ただの偶然で全員が不幸になってしまうのはありえないので、やはり今西が悪意を持って 相手を陥れていた可能性の方が高い気がします。
今西が不幸にしてしまった人たち
漫画家の卵
会社を辞めて漫画一筋でやるか悩んでいる時に、会社を辞めて夢を追うことをアドバイスする。
アドバイス通り会社を辞めた結果、6年間鳴かず飛ばず状態…。
保険のおばちゃん
今西に想いを寄せていたけど想いが届かず、ヤケになって今西の友人と結婚。今西は結婚には反対したが 今西を忘れるために半ばヤケになって結婚し、DVにより即離婚…。
今西は結婚することに反対はしたが、反対した方が逆に意地になるタイプの女性だということも見抜いた上で わざと反対したのでしょうね。
今西の元同僚
高級マンションに住みたがっている 奥さんの後押しをして 身分不相応な高級マンションを勧める。
結果、ローン返済のために残業する日々…。妻も仕事で疲れ切ってしまい、すれ違いの生活となる。
今西の元職場の予備校講師
結婚しているのに予備校の生徒と不倫していたことが奥さんにバレて、予備校に殴りこみにくる事件が勃発(普通に包丁を振り回してたので危なすぎる)。
なぜか3人で暮らすようにアドバイスし、その結果 現在もずっと3人で暮らしているが 魂が抜けたような状態になってしまう。
余談ですが 奥さんが殴り込みに来た時の うろたえている姿がちょっと気持ち悪かったです…😅
今西の腹違いの兄
自分と違って桁違いの才能を見せる弟(今西少年)に嫉妬し 壮絶な虐めを加えるが、ストレスによりある時から 天才から平凡になってしまう。だんだん弟に対して興味をなくし、むしろ「家を追い出されたらどうしよう」と弱っている彼に同情し可愛がるようにもなる。
しかし、今西少年は大事な初の舞台で兄を出し抜いて 完璧なお披露目をすることで兄を裏切る。平凡になってしまったと見せかけて 油断させていたのだった。
結果、絶望し自暴自棄になった兄は 師匠(父)と母・弟子仲間を殺害し、自身も首を切り自殺する。
会社の上司(部長)
仕事が出来過ぎる今西に嫉妬している。自分のポジションを守るため、今西に1億円横領の罪を着せようとしていた。最初はショックを受けた今西だったが、部長の罪を背負って失踪すると告げて部長を驚かせる。家族がいないので 上司は家族と同じくらい大切な存在だと伝え、亡くなった兄が生きていれば部長と同じ歳だとも伝える。
結果、部長は罪悪感に苦しむことになり 自責の念から自殺。
今西が不幸にしているのか?
こう羅列してみると、確かに今西と関わった人が不幸になっているのは事実ではある。
だけど、正直 『自業自得』ではないか?とも思うのですよね…。
漫画家の卵に関しては、ここで「会社は辞めるのはやめた方がいい。もし売れなかったらどうする?」と当たり前のアドバイスをされてその通りにしたところで きっと彼は後悔したただろう。会社を辞めて漫画だけに力を入れたいことは 彼の中では答えは出ていて、今西に背中を押してもらいたかっただけなのだと思う。
今西に「会社を辞めてもいい」「夢を追って会社を辞めるなんて俺にはできない。もしそれが出来たらすごいことだ。」と言って欲しかった。今西は相手が欲しがっている言葉を言ってあげただけなのだ。
高級マンションを購入した元同僚にしても、元々妻がパートで働くとかっこ悪い…と体裁ばかり気にしていた。年下の妻にしてもローンの返済や仕事の厳しさを知らず、頑張ればどうにかなるという甘さがあった。素敵な家に住みさえすれば幸せになれると思い込んでいて、体裁ばかりを気にしていた夫とよく似ている。表面上のことばかりに囚われて 本当に大事なことを見落としていたのかもしれない。本当は奥さんがパートに働きに出ても夫に甲斐性がないなんて誰も思わなかったし、高級マンションに住まなくても幸せに暮らせたのに…と残念に思う。
保険のおばちゃんも 当てつけのように好きでもない相手と結婚しなければ、殴られることも離婚することもなかった。今西は態度を曖昧にしていたが優しく対応してくれたので、保険屋のおばちゃんからすると好意を持ってしまう気持ちもわかる…。でもやはり 優しくしてくれる男性に対して すぐに飛びついてしまうのが問題だった。
今西の友人でなくても いずれ同じようなDVする男に引っかかっていたと思う。
生徒と不倫した挙句「どちらも愛しているから どちらも選べない」という優柔不断な予備校講師は 自身がちゃんとけじめをつけないから 結局どちらからも相手にされなくなってしまった。一見、一夫多妻制っぽいし 一部の人からは羨ましいと思われるかもしれないけど、どちらからも愛されていないのであれば 実際はかなり孤独なのではないか。しかも 奥さんに対しても 愛人に対しても、傷付けてしまった負い目があり 頭が上がらない状態なので 孤独な上に窮屈な暮らしになってしまった。
ただ、今西が関わった人はほぼ不幸になってしまっているけど、漫画家の彼だけは違いました。
今西の口車には乗ってしまったけれど、現実から逃げずに 努力をし続けたからこそ賞が獲れたのだと思う。
それは今西のアドバイスのおかげではなく、彼自身が頑張ったからです。
なので、不幸になってしまった人達が不幸になったのも 最終的に自分で不幸になる道を選択した自分自身によるもの、ということですよね。
自分の中にある邪悪な部分である“欲”によって不幸な選択をしただけです。
今西はその人の中にある“蛇”に気付いてしまうと、その部分を炙り出さずにいられない性分なのかもしれない。相手を不幸にしたいのではなく、邪悪な部分を持っているのに 自分は善人だと信じて疑わない人に対して許せない気持ちになってしまうのかも(これは生い立ちが影響しているように思う)。口車に乗せることで 人間性を試したくなってしまうのかもしれません。
大体が今西の口車に乗って予想通り不幸な結果となってしまうのだけど、それは彼らが自分の邪悪な面と向き合わずに改善できなかったということだと思う。
なんか…今西が笑うセールスマンの喪黒福造のようにも思えてきた(嘘です…笑)。
しかし、どんな思いがあるにせよ 人を陥れているという面で 今西も邪悪であることは確かです。多分、今西だけでなく みんなが邪悪な“蛇”を持っているって話なんだと思います。
“蛇のひと”とは
口笛を吹きながらお風呂掃除をしていた 子供時代に、兄から
「夜に口笛を吹くと蛇が出るぞ」
と言われるシーンがある。
邪悪の“邪”と“蛇”が同じであることから『邪悪なものが寄ってくるぞ』という意味のようです。
この時は今西少年が“蛇”であるということを意味していると思ったのだけど、よくよく考えてみると 口笛を聞きつけて 寄ってきた兄の方が邪悪な存在ですよね。何も悪くない今西少年をひどく虐めていたので…。
もしくは、兄から『邪悪なものが寄ってくる』と聞いたことにより、初めて 今西少年の心に邪悪なものが芽生え、“蛇のひと”になってしまったのかもしれない…。
ラストシーンについて
三辺が口笛を吹きながら歩くシーンですね。なんとなくウキウキしながら歩いているようにも見えます。わざとかってくらい吹きまくっているようにも見えました。蛇?来るなら来い!という感じ。
『夜に口笛を吹くと蛇がくる』と知った上で吹いているので、三辺にとって 蛇は怖いものではないということ。
今西の正体を知ったことによって 蛇の正体が自分自身の中にあるものだ、ということに気付いたからかな?と思います。
自分の中にも邪悪なものが存在していると受け入れた上で、そんな自分と向き合って正しく生きていれば、誰かによって不幸になることはないと理解したからだと思う。
自分の人生を他人任せにせず、自分で選択し、自分で責任を取る。
シンプルだけど案外難しい。自分が不幸なのは 誰かのせいってことにした方が楽なので。(何も落ち度がないのに 被害者になってしまった場合は別ですが…)
自分の弱さとか ズルさを受け入れて生きるのは 大変だけど、長い目で見ると幸せになれる唯一の方法なのかもしれない。
今西は三辺に「一緒に帰ろう」と言われますが 一緒には帰らず、車ごと海に突っ込もうとします。今までの今西であればそんなことはしません。
今西は三辺のことが好きだったのだろうなぁと 私は勝手に思っています。
自分のような人間が近くにいれば、三辺を不幸にしてしまうかもしれないと思っているからです。初めて不幸にしたくないと思えた人だったのかもしれません。
だけど三辺は蛇なんて怖くないと思っているんですよね。
ラストの夜道で口笛を吹きまくっていたシーンでわかるように、誰かによって自分が不幸にはならないと知っているから。
なので、この時点で三辺は今西について攻略済みということです。
その証拠に ダッシュボードの中に子供の頃 兄に捨てられてしまった万華鏡を忍ばせ、今西の自殺を食い止めることができました。
今西は「これを探してたんや」といって万華鏡を覗き込みます。
どんなに辛い環境でも 万華鏡の中はキラキラしていて美しい、と子供時代に言っていました。
今西にとって、わずかでも 一筋の光があれば“蛇のひと”にならずに済んだのかもしれません。
三辺はそのことに気づいて、今西の心の闇に 小さな光を照らしたのかなぁと思います。
その後の2人はどうなったのか
その後の2人の様子は想像でしかないけれど、三辺は多分 婚約者とは結婚しなかったのではないかなぁと思います。建前上、結婚しておいた方が良いかな…程度の気持ちしかなかったということに今西によって炙り出されてしまったのと、そんな気持ちで結婚しても 自分も相手も幸せになれないと思ったのではないかと思う。
個人的には今西とくっついて欲しいけど、多分それはないかなぁ…
ただ、人生の中で 大きな影響を受けた人として、お互いの心の中に ずっと存在し続ける人であるのは間違いないと思います。