興味本位で鑑賞しましたが 個人的にはとても良い作品だと思いました。
(多少のツッコミどころはありつつ…)
1950年代のソビエト連邦を舞台に、実在した連続殺人鬼を絡めたストーリーとなっています。
「殺人は、資本主義の病である」
「楽園に殺人は存在しない」
これはかつての社会主義国家の支配者、ヨシフ・スターリンの言葉。
要は実際には殺人事件が頻発しているにもかかわらず、社会主義国家は楽園なのだから殺人など起こるわけがない!と事実を捻じ曲げて「臭いものに蓋」をしている、という状況ですね。
遺体となって発見された子供達は裸で発見され、メスで切ったような外科的な傷があり 胃や肺が摘出されている。
明らかに他殺なのに列車事故や溺死として扱い、捜査を終わらせてしまいます。
「いや、どう考えてもこれは殺人事件ですよ」とか言おうものなら、反逆罪に問われて 拷問されたり粛清されてしまう。
そんな環境で捜査を進めるのだから大変。何度も危機的状況に見舞われてしまう…。
観ていて「あ~さすがにこれはもう無理」という場面が何度かあってドキドキしてしまいました。
以下、個人的に思ったことを色々まとめてみます。
作品詳細
製作年 | 2015年 |
---|---|
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 137分 |
監督 | ダニエル・エスピノーサ |
出演者 | レオ・デミドフ / トム・ハーディ ネステロフ将軍 / ゲイリー・オールドマン ライーサ・デミドワ / ノオミ・ラパス ワシーリー / ジョエル・キナマン ブロツキー / ジェイソン・クラーク クズミン少佐 / ヴァンサン・カッセル、他 |
簡単解説
2009年版「このミステリーがすごい!」海外編で1位を獲得したトム・ロブ・スミスのミステリー小説「チャイルド44」を映画化。1950年代、スターリン体制下のソ連を舞台に、子どもを狙った連続殺人事件の行く末を、リドリー・スコット製作、トム・ハーディ&ゲイリー・オールドマンの共演で描く。監督は「デンジャラス・ラン」のダニエル・エスピノーサ。53年、ソ連で9歳から14歳の子どもたちが全裸で胃を摘出され、溺死した変死体として発見される。しかし、犯罪なき理想国家を掲げるスターリン政権は、殺人事件は国家の理念に反することから、事故として処理してしまう。秘密警察の捜査官レオは、親友の息子の死をきっかけに、自らが秘密警察に追われる立場になりながらも事件の解明のため捜査を開始するが……
映画.comより
私はまだ未読なのですが 原作も評判が良いようです。
気になる方は原作もどうぞ☺
簡単なあらすじ
1933年、スターリン政権がウクライナに招いた飢饉で、日に2万5000人が餓死した。この、飢えによる虐殺、ホロドモールは多くの孤児を生んだ。
雪の積もる森の中に建つ一軒の屋敷。そこには沢山の孤児がいた。廊下で弱者を虐める子供たちの目を盗み、一人の少年が屋敷を抜け出した。そこはソ連のウクライナ。少年は、森林の中でキャンプを張っていたソ連兵に助けられ、食事を施されていた。父親が死んで一人きりになったとき、名前を棄てたと言う少年に、兵士の一人がレオという名を与えた。その後、成長したレオは一人前の兵士になった…
MIHOシネマより
↓Amazon Primeで観てみる↓
基本的にネタバレを気にせずに書いているので、未見の方でネタバレしたくない方はご注意ください。
MGB(ソ連国家保安省)の捜査官
レオ・デミドフ
(C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
1933年のスターリン体制下のソビエト連邦。ホロドモールというウクライナ飢餓により両親を失い、孤児院で育った。しかし孤児院も飢えと暴力が横行していたため脱走する。ある軍人に保護され「レオ(獅子)」と名付けられた。
その後、成長したレオはベルリン陥落の作戦に加わり ソ連は勝利。旗を持って記念撮影したことで「レオ・デミドフ ソ連の英雄」と新聞のトップを飾ったりしてる。その後もMGB(ソ連国家保安省)の捜査官となり 将来が約束されたような立場だった。
幼少期はとてつもない苦労をしてきたレオでしたが、この段階では順風満帆な感じですね。国の意向に少しでも反すると罰せられたり粛清されてしまうような 息苦しい時代背景ではあるけど、こういう時代を生きる場合、権力がある方が絶対的に有利だし生き抜ける可能性が高いので。レオは権力を持っていたので平和に暮らすことも出来たとは思う(人としての心は失いますが)。
しかし、戦友でもあるアレクセイの息子(ユーラ)が遺体となって発見されたことをきっかけに、同じような子供の遺体が何体も発見されていることに疑問を持つようになる。普通の人間であれば当然の思考回路だと思うけれど この事件によってレオの人生も大きく変わることに。というか 子供の変死体が何体も発見されているのに、ひたすら無視して、ずっとスパイ探しばっかりしているというのはやっぱりおかしいですよね…。捜査官という立場の人間しか事件を解決することはできないのに…。時代によって人間の行いは左右されるものだと改めて思ってしまう。
レオの妻 ライーサ
(C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
レオが一目ぼれをしたことがきっかけで結婚。小学生の先生をしている。一目ぼれしてしまうほどの絶世の美女という感じじゃないのがリアルで良いと思った(もちろん美しいのですが)。それよりも知的で強い女性という印象。本当はレオのことは好きではなかったがMGBであるレオのプロポーズを断ったら 報復されると思い受け入れるしかなかったとのこと。国家権力 恐るべし…。
確かに前半は新婚ホヤホヤであるにもかかわらずライーサはあまり幸せそうではないんですよね。レオと話す時は笑顔だったりもするのだけど、気を遣って笑っているような顔をしていて。いつもどこか表情が暗かった(レオのことを“怪物”と言ってましたからね…)。
しかし、少しずつ心が通い合っていく過程は良かったですね。学校の先生なのに ちょっと強すぎるのでは…と思ったりもしたのですが(笑)
レオの戦友 アレクセイ
(C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
息子(ユーラ)が線路の近くで変死体として発見されるも事故として処理されてしまう。納得はいかないがあまり事を荒立てると家族全員が処罰される恐れもあり黙認せざるおえなかった。
極悪非道 ワシーリー
出典元:公式サイトより
もう、こいつ本当になんなの…っていうくらいに最初から腹の立つ奴でした。わかりやすい悪役ですね(笑)
レオの後輩?みたいな立場だったけれど 何かとレオにいちいち歯向かってくる。冒頭の農夫の両親を子供の前で見せしめだということで あっさりと射殺した時は「あ…人の命をこんなに軽々しく扱うんだ…」と絶望してしまった。形は違えど 同じように両親を奪われているレオの逆鱗にふれて怒鳴られても 何が悪いのかわからない…みたいな態度をとる。
その他にも
- ライーサのスパイ容疑で家宅捜査をしている時も「切り裂かずに手探りで」と言われているのにナイフで切り裂く。
- レオが左遷される際に わざわざ処刑する場所に連れて行き「ここを見せたかった」と笑う。
- レオから奪いたいという理由のためだけに ライーサを口説き、言うことを聞かないと報復すると脅迫する。
- 捜査を強引に進めるレオに対して自白剤を打ったり、貨物車に乗せたり(その客にナイフを渡して殺害を依頼したり)。
- レオの戦友アレクセイを ワシーリーに協力したにもかかわらず射殺する。
- なんだかんだで最後は「英雄」という扱いの死。
他にもあったかな…。とにかく どうしようもない人間でした。
でも皮肉にもこういうタイプの方が組織としては扱いやすく、優秀ということになるんでしょうね。
それにしても最後の泥んこの取っ組み合いはワシーリーっぽくなかったような気がします。
もっとあっさりとパンパン撃っちゃう人間なのに、レオの時だけ少し撃つのを躊躇するのは なんていうか…嫌いだけどレオに思い入れはあるということなのか?と少し思ったり。
クズミン少佐
出典元:公式サイトより
レオを試すためにレオの妻にスパイ容疑をかけ捜査させる。どれくらい忠誠心があるのか、絶対服従できるか…。妻を差し出せば合格ということでしょう。
体よくテストということにしているけど本当に悪趣味だと思う。ちゃんと正直に「証拠はない」と言っているんだから逆に評価されるべきなのに。
無実なのに自分の妻を差し出す方が 捜査官としても人としてもどうなの…。とはいえ、この件をきっかけに左遷されてしまいます。しかし レオにとっては好都合な出来事だったかもしれない。MGBという立場のままだと捨て身になって色々動けなかっただろうし、周りも警戒して協力してくれなかったかもしれないので。
ネステロフ将軍
(C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
最初はレオに対して良くは思っていなかった。子供の変死体を事故ではなく事件だと言い張っているので面倒なことに巻き込まれたくないと
思ったからである。しかし、ネステロフ将軍にも同じ年代の子供が居たことから 少しずつ人間味を取り戻し、捜査に協力的になる。
ゲイリー・オールドマンなんですよね。もっと活躍すると思っていたけど、意外にも脇役?のような感じで少しだけガッカリ…^^;
犯人 マレヴィッチ
(C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
このマレヴィッチという人間が犯人でした。う~~~ん。。。
え?誰ですか?動機は?という感じのままワシーリーに射殺されてしまった…。
どうやらレオと同じように孤児院育ちであるらしい。そして第二次世界大戦では軍医だった。
ネステロフ将軍の調査によると、ヒトラーが最後の報復としてライン川沿いの各地に残して行った兵士らの話がある。
特殊な薬で薬漬けにされた兵士たちは、その影響で子供の血を欲するようになってしまうという。
マレヴィッチ自身も射殺される前に「自分ではどうしても抑えることができない」と言っていたので、子供の血を求めて次々に手をかけたのだと思う。が、マレヴィッチ自身にも同じ年頃の子供が居るんですよね…。
抑えることができないと言いつつ、自分の子供には手を出さないっていうのはなんだか納得ができない。
逆に言ってしまうと 手をかける相手を選ぶくらいの余裕はあるってことなので。
あっさり射殺されてしまったので少し拍子抜けでした。
まとめ
(C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
映画を通して全体的に感じたのは、人権が無視されていた理不尽な時代背景。思ったことを軽々しく口に出せなかったり、行動も監視され、場合によっては処罰される時代。
この時代を“楽園”と称していたのも驚いてしまう。楽園かどうかは そこで暮らしている人達が決めることで、国が押し付けるものではない。そんなギスギスした時代に殺人事件が起こってしまい、でも楽園だから殺人じゃないし…でもまた遺体が発見されちゃったけど殺人ではない…とかゴニョゴニョしている。本当に現代の常識から見ればバカバカしい感じだし サッサと捜査して犯人を捕まえてよ!って思うけど 当時としては表向きの体裁が一番だったのでしょうね、バカバカしいけど。
とてもハラハラしたシーンも多く 個人的には好きな作品ではあるのだけど、時代背景の残酷さの方が際立っているので 容疑者の存在感が薄かったように思う。この容疑者のモデルになっている“アンドレイ・チカチーロ”は実在した殺人鬼なのだけど、本当にとんでもない殺人鬼なんですよ…。こんなにサラッとした扱いだとは思わなかったので、そこはちょっと拍子抜けでした。
犯人であるマレヴィッチと 極悪非道なワシーリーを比べてしまうと、MGBであるワシーリーの方が異常に見えてしまう。
(狂った殺人鬼と同じくらい政権(MGB)も狂っているということを伝えるためなのか?と勘繰ったりもしますが、ちょっと無理があるような…)
レオの妻であるライーサが レオのことをずっと“怖い”って言っていたんですが、ラストでは“もう怖くない”と言うシーンがありました。
一緒に色々なことを乗り越えて、レオの人柄を理解したからこそだと思う。
両親を奪ってしまった姉妹を引き取ることを決めたレオ夫婦ですが、恐らく姉妹からするとレオは両親を奪った“恐ろしい人間”なので、ライーサのように“もう怖くない”と言ってもらえるようになるまでは、とてつもない時間がかかるでしょうね。
(普通に恨まれる可能性の方が高いですし)
(実際に撃ったのはワシーリーなんですけど、姉妹からしたら同じ組織の人間なので同じようなものですし)
それでも、いつか“もう怖くない”って言ってもらえるように レオには頑張って欲しい。レオの言う通り「両親はもう返せない」のだから。
人の命を奪うというのは、本当にとんでもない罪だと思う。
色々書きましたが 総合的には好きな作品でした。
原作を読んでいたら少し感想も変わるのかもしれませんね。