このタイトル…。絶対に怖そうだし一体誰が観るんだ…って思ってたんですけど、観ちゃいました。
正直 何も期待していなかったし、見始めて1時間くらいは淡々と進行していくので 心が動くこともなかったのだけど、終盤の展開に「嘘でしょ…」ってなりました。
何が怖いかというと 実際にあった「新安塩田奴隷労働事件」を元にしているってことですね。しかもこの事件が発覚したのが2014年とのことなので 割と最近の事件でもあります。
とはいえ、全てが実話というわけではなく この事件にヒントを得て制作した映画、というのが正しいようです。半分(特に後半)はフィクションとなります。
だとしても 怖すぎる話でした。
新安塩田奴隷労働事件とは
人身売買の仲介業者は、知的障害者に食事も十分に提供する雇用先があると紹介し、全羅南道新安郡の塩田業者に10万ウォンから30万ウォン(事件発覚当時の日本円で約9300 – 28000円)で売却していた。被害者のなかにはソウル駅でホームレスをしていたら声をかけられた者もいた。
現場となった塩田は新衣島など離島にあり、韓国での天日干しの高級塩は、ほとんどこの全羅南道新安郡で作られ、ブランド品となっていた。このうち大規模塩田所有者が知的障害者を奴隷として扱っていた。
知的障害者の労働者は監禁され、さらに塩田労働に対して賃金は一切支払われていなかった。労働者は納屋・エアコンのない倉庫で約5時間の睡眠時間を与えられて生活し、食事は粗末で、脱走を図った者は捕まえられスコップや鉄パイプ、角材でリンチされた。骨折の治療も受けられずに、片足切断の体で働かされている被害者もいた。脱走した被害者は島民によって事業主に報告され、再び連行された。
塩を作らない季節は養魚場や建設現場での労働に従事させられていた。
wikipediaより
作品詳細
製作年 | 2015年(上映は2017年) |
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製作国 | 韓国 |
上映時間 | 88分 |
監督・脚本 | イ・ジスン |
出演者 | パク・ヒョジュ ペ・ソンウ イ・ヒョヌク リュ・ジョンヨル、他 |
簡単なあらすじ
2014年、韓国社内に大きな波紋を投げかけた実在の出来事、新安塩田奴隷事件にヒントを得て製作された社会派ドラマ。天然塩の名産地として知られる離島で大量殺人事件が発生した。さらに、塩を生産する塩田や関連施設で、違法に人身売買された知的障害者たちが奴隷のように働かされていたというショッキングな事実が明らかになる。その噂をいち早く聞きつけ、事件発覚前から島を訪れていたテレビ局の女性記者ヘリは意識不明の重体となり、後輩カメラマンのソクフンも殺害されていたが、やがて行方不明になっていたはずの取材テープが発見され、驚くべき真実が判明する。記者ヘリ役に「チェイサー」のパク・ヒョジュ。ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2017」上映作品。
映画.comより
基本的にネタバレを気にせずに書いているので、未見の方でネタバレしたくない方はご注意ください。
正義感が強い報道記者「イ・ヘリ」
出典元:映画.com
塩田の島で大量殺人事件が発生したところからスタート。色んな専門家がサイコパスについて語っています。カメラマンを含む4人が殺害され、作業員1人が行方不明、生き残った女性記者は重体。この女性記者が「イ・ヘリ」なのですが 正直、ヘリの第一印象はあまり良くなかった。
韓国映画に出てくる女性っていつも第一印象が悪いのですが…。なんか…こう…強引だったり 自己中心的だったりすることが多くて。韓国ではちょっと気の強い女性がウケるのかな?(不思議と観ていくうちに慣れちゃうんですけどね^^;)
ヘリですが、すごく正義感が強い女性です。塩田の島で知的障害者が過酷な労働を強いられている…という情報を得て来たので なんとしても実際に働いている人に直接話が聞きたいし カメラに残したいと思っています。
なので人の家に平気で入っていくし、勝手に撮影してるしで、いくら悪事を暴きたいとはいえ ちょっとやり過ぎだなぁと感じました。
ただ、この映画では彼女中心で進行していく関係で どうしてもヘリを応援したくなってしまいますよね…。それにヘリの言動や行動はちょっと行きすぎてはいるけど、間違ってはいないのも事実。
かつて労働者だった「チョ・ウンテク」は過酷な労働により、常に怯え 廃人のようになってしまっている…。誰かが声をあげないといけない状況で ちゃんと行動できるのはスゴイと思います。
新婚ホヤホヤのカメラマン「ソクフン」
出典元:映画.com
前半は手持ちカメラで撮影した画面(POV)が続きます。このカメラマンがソクフンですね。ヘリと違ってそこまで仕事に情熱を注いでいる訳でもなく(いや、相当頑張ってますけど ヘリと比べるとって話です)、今回の仕事はちょっと嫌々やってる感じがあります。
というのも、彼は新婚で本来なら新婚旅行に行く予定だったのにこの仕事のせいで行けないと言っていました。
(そりゃ絶対に嫌だろうなぁ…ずっと前から計画してただろうに…) ラストの展開を思うと悲しくなってしまう。
韓国映画の男性(パートナーなど)は絶対にいつも優しくて見守ってくれる人が多いけど、今回もそんな感じでした。ラブストーリーじゃないので多少はドライですが。
正義感が強いヘリとの相性は良いのだと思います。
彼がカメラを回し続けてるのですが、慣れないと画面がユラユラして気持ち悪くなりそうです。それに毎回「勝手に撮ってんじゃねーよ!」って怒鳴られるのも大変そう…。どうせ強引な取材をするなら最初からカメラを隠して撮影しておけば良かったのでは…と思ったり。
知的障害者の作業員達と「イ・サンホ」
出典元:映画.com
この島の作業員「イ・サンホ」は知的障害があるようでした。彼に話を聞こうとしても「知らない人と話すと怒られる」と取り合ってくれません。現にヘリが話しかけたせいで サンホは社長に暴行されてしまいました。
また ある作業員は「賃金は毎月振り込まれているが この島には銀行が無いから確認はできない」と言っていたり、身なりもボロボロ。裸足のせいで凍傷になりかけているのか 足もボロボロ…。
散々な目に遭っているにも関わらず、恐怖心があったり洗脳されているせいで 社長に対して悪く言ったりせず出て行こうともしません。
この部分は実話ベースだと思うので 正直観ていて苦しくなりました。完全に支配されている状態だと冷静に判断したり、何が正しいのかわからないだろうと思う。
ここを出て行ったら自分なんか生きていけないのではないか…と思ったりもするだろうし(ここ以外では生きていけないぞ…と洗脳していると思うので)、知的障害があれば なおさら相手の言うことを素直に聞いてしまうのではないか…仮に現状に疑問を抱いていても自分の意見として上手く伝えられないのは明白です…。
島の閉鎖的な環境と使えない警察、行きすぎた取材…
出典元:映画.com
もうね…100%社長が悪いのだけど 取材する上でヘリにはもう少し気を付けて欲しいって思ってしまった。怖がっている相手に強引に近付いて色々と詮索しまくるのは良くない。それが正しいことだとしてももう少し段階を踏んだ方が良かった…。
(実際 サンホはヘリのせいで暴行されてしまった訳で…)
社長とバカ息子をちゃんと逮捕させるためにも、無計画に好奇心でガンガン責めるのではなくてもっと計画を立てた方が良かった。
島全体で口裏を合わせていて、社長の悪事を表沙汰にしないようにしているし 警察も全く使えない(というか社長と癒着状態)。国の行政機関もたらい回しにするだけで相談窓口もない状態。
報道記者であるヘリはかなり頑張ってはいるものの、相手の都合を考えない強引な取材方針であることも事実。
日本にも似たような部分があるとは思うけど、韓国の闇を感じてしまった…。
衝撃のラスト!
出典元:映画.com
冒頭で最悪な結果になってしまうことはわかってはいたのですが、まさか、こんなラストになるとは…。想像の斜め上をいってしまった感じですね。
過酷な労働環境から 声をあげられない彼らを救い出そうとするストーリーだとばかり思っていましたが、ラストでの大ドンデン返し…。「嘘でしょ…」ってなってしまった。
(もちろん ラストに関してはフィクションです。フィクションで良かった…)
知的障害者である「イ・サンホ」は家族から捜索願いが出ていることが判明しました。
この知らせを聞いた時「良かった〜家族の元に帰れるね」って単純に思ってしまったのだけど、実はイ・サンホが最後に会っていたとされる人物「キム・ミョンチョル」は15年前の大量連続殺人犯だったとわかります。そして、イ・サンホだと思われていた人物は実は「キム・ミョンチョル」だった…。
(ってことは本当のイ・サンホは恐らく殺害されてもうこの世にいないってことですね)
この展開は普通に怖すぎます!真実を知ってしまったヘリですが、時すでに遅し…。
冒頭の大量殺人事件が起きてしまう。
相手に素性が気付かれたとわかった途端に、目つきや話し方も全くの別人となって殺人者になる サンホ役の人、演技が上手すぎてそれも怖かった…。(映画「凶悪」で悪役を演じているピエール瀧のような雰囲気も感じましたが^^;)
そしてサンホは捕まらないまま 大量殺人犯は違法な労働をさせていた社長親子だったということで幕引き…。ものすごい不完全燃焼ですが、実際の未解決事件もこんな風に幕引きされているのかもしれないなぁと思うと妙にリアルでもありますね。
正義を貫いても勝てない時もある…悲しい…。
まとめ
出典元:映画.com
前半は実際にあった事件を元にして、後半はフィクション というストーリー構成でしたが、思いのほかすごく怖かったし、フィクションでありながらリアルだった。
大量殺人犯なんて議論するまでもなく 全員が精神異常者だと思うのだけど、それを専門家とか偉い人たちが議論しているのが少し滑稽に思える。精神異常であることなんて素人でもわかりますよね…。
島の閉鎖的な空間や馴れ合い、弱者を救うことが出来ない行政の問題や警察の闇、行きすぎたマスコミの取材方針、無責任にネット上で誹謗中傷する人達、全てのことに無関心な人達、色んな闇がギュギュって凝縮されている映画だったのではないかな?と思います。
皮肉にも あれほどカメラマンがずっと回し続けていたテープにも、サンホが殺人者であったという証拠は残っていないんですよね。社長が酷い環境で知的障害者を働かせ、とんでもない人間だったという証拠しか残っていないわけです。大事な部分(真実)は記録されていません…。
本当の真実は闇に葬られてしまったということです。
ラストでヘリが本当のことを証言しようとしていますが、恐らくサンホを逮捕することは難しいだろうと予想できます…。切ないですが現実は厳しい。
正義を貫くには 覚悟とそれなりの準備が必要だと思いました。
想像していたよりもヘビーな内容でしたが、観て良かったです。